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中から出てきたのですけれども、その碑文にはギリシアのデルフォイの神殿がございますが、そこに書かれておった「賢き人間の一生」という文章をそのまま持ってきて写してあります。その内容はどうかといいますと、

 

まだ小さい子供の時には節度ということを学ぶ
青年時代になっては感情をコントロールすることを学ぶ
中年になっては正義を学ぶ
そして老年になってはよき助言者になることを学ぶ
そして最後には悔いなく自ら死を迎えることである

 

これが人間の最も恵まれた一生であるというふうな言葉がギリシア語で書かれています。その碑文の一節をそのままギリシア語で書いて、アイ・ハヌムのキネアスの霊廟の中に掲げてあったのですけれども、このアイ・ハヌムという遺跡の話になると、私はいつもこの言葉を思い出すわけであります。
それから次にご紹介いたしますのはティリヤ・テペという、これもお墓ですけれども、そこからすばらしい黄金のいろいろな遺物が約2万点出てまいりました。やはり北アフガニスタンのシバルガンという、ソ連の国境に近いところにあります町の郊外から出てまいりました。これはソ連の考古隊が発掘調査をいたしました。しかも1978年の最後の近い頃に発掘されたので、それが出たということは当時私も聞いておりましたのですけれども、どんなものかよくわからなかった。ところが幸いに私は1983年に再びカーブルに入ることができまして、その時に見せていただいたのですけれども、6つの墓がありまして、これが男性、女性とがあるのですが、それぞれが頭の上から足もとに至るまですべて黄金のいろいろな装身具を付けたものが出てきているというものでございます。
それからもう一つはベグラムという遺跡であります。ベグラムというのは、アフガニスタンの真ん中にヒンズークシ山脈という、パミール高原から西へ出ている大きな山脈がありまして、これによってアフガニスタンは北と南に分かれていますが、そのヒンズークシ山脈の南麓にある遺跡であります。例のインドのクシャン王朝のカニシカ王という王様が、この方も大変仏教を尊崇しておりましたが、クシャン王朝というのはもともとアフガニスタンに起こりまして、アフガニスタンからずっと広くパキスタン、インドの北部まで大きなクシャン王国を建設した国家ですけれども、そのカニシカ王の「夏の都」と言われているところがこのベグラムであります。そこに都市があるのですけれども、その都市の一画の小さな部屋の倉庫の中から、またいろいろなすばらしい財宝が見つかりました。そこでは西方のエジプトのアレキサンドリアでつくったと言われている各種のガラス製品、カットグラスや型ガラスや彩色ガラス、それから青銅でつくりましたハルポクラーテスだとか、あるいはセラピスとヘラクレスだとかといったようなギリシア風の彫刻あるいはアラバスター製品、あるいは石膏でつくりました、やはりこれもギリシア風のいろいろな彫刻、それと同時に今度はインドのすばらしい象牙の彫刻類、それから中国の漆器類というふうなものもここでは出土しております。
ですから一番最初に申しましたように、アフガニスタンにはギリシアとインドと中国、それが期せずしてやってきたと、それぞれの源流のものがこのベグラムの遺跡から発見されているという、非常にこれもいかにもアフガニスタンらしいというか、アフガニスタンでなければこういうふうな組合せというものはできない、そういった宝物がここから見つかっているわけです。
それからもう一つハッダという遺跡がございます。これは東のパキスタンに近いところにあるのですが、ここには仏教寺院がいくつかございまして、ストゥッコの仏像がたくさん出ています。そこの仏像の大きな龕がございまして、その仏像の横に脇侍としてギリシアのヘラクレスの像が置かれているのです。これを見まして私は本当にびっくりしましたが、いわゆるお釈

 

 

 

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